NMNは加齢による認知機能低下を防げるのか ― 「腸-脳軸」とNrf2/HO-1経路が示す脳保護メカニズム
「最近、人の名前が思い出せない」「物忘れが増えた気がする」——年齢を重ねるなかで、多くの人が感じる変化です。こうした加齢にともなう認知機能の低下の背景には、脳にたまっていく酸化ストレスと慢性的な炎症があると考えられています。
加齢にともなう認知機能の低下を考えるうえで欠かせないのが、年齢とともに体内で減っていく補酵素NAD+です。NAD+はエネルギー代謝やDNA修復に関わり、細胞を酸化ストレスや炎症から守る働きを下支えしています。だからこそ、NAD+を補うことが脳の守りにつながるのではないか——そう期待を集めているのが、体内でNAD+に変換される“もとになる物質(前駆体)”であるNMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)です。
本メディアではこれまで、NMNがどのようにNAD+を高めるのかというメカニズムの面を解説してきました。今回ご紹介するのは、そのNMNが実際に「脳」を守れるのかに踏み込んだ研究です(マウスを用いた基礎研究です)。2026年に科学誌 Metabolites に掲載されました。加齢モデルマウスを使い、NMNが認知機能の低下を防ぐ可能性を検証した内容です。研究では、その鍵として「腸-脳軸」(腸と脳のつながり)と、「Nrf2/HO-1経路」(からだの抗酸化スイッチ)という2つの切り口を示しました。
この記事でわかること
- なぜ加齢で認知機能が低下するのか ― 酸化ストレスとNAD+の関係
- 「腸-脳軸」とは何か、なぜ脳の健康に関わるのか
- 加齢モデルマウスでNMNが示した5つの変化(記憶・抗酸化・炎症・腸内細菌・からだの抗酸化スイッチ)
なぜ加齢で認知機能が低下するのか ― 酸化ストレスとNAD+
まず、加齢と認知機能の関係を整理しておきます。私たちの細胞は、エネルギーを生み出す過程で活性酸素※を発生させます。少量であれば問題ありませんが、加齢とともに処理が追いつかなくなると、活性酸素が細胞やDNAを傷つける「酸化ストレス」の状態に傾いていきます。
脳はからだのなかでも酸素消費量が多く、酸化ストレスに弱い臓器の一つとされています。酸化ストレスが続くと、脳内の免疫細胞であるミクログリアが過剰に活性化し、慢性的な神経炎症※を引き起こすことが指摘されています。この「酸化ストレス → 神経炎症」の連鎖が、加齢にともなう記憶力の低下に関わると考えられています1。
この酸化ストレスや炎症から細胞を守る働きを下支えしているのが、冒頭でも触れた補酵素※NAD+です。NAD+は加齢とともに減少していくことがわかっており2、これを補う手段として注目されているのが前駆体「NMN」です3。なお、NAD+は、からだに備わる抗酸化の司令塔「Nrf2/HO-1経路」とも関わることが知られています(くわしくは後述)。
用語解説
- 活性酸素
- 体内でエネルギーをつくるときに自然に生じる物質。増えすぎると細胞やDNAを傷つける。
- 神経炎症
- 脳の中で起こる炎症。慢性的に続くと神経の働きを乱す。
- 補酵素
- 酵素の働きを助ける物質のこと
「腸-脳軸」とは ― 腸内環境が脳とつながるしくみ
酸化ストレスや神経炎症は、これまで主に「脳のなかの問題」として研究されてきました。しかし近年、もう一つの登場人物として注目されているのが腸です。
腸と脳は、神経・ホルモン・免疫などを介して双方向にやり取りをしており、この関係は「腸-脳軸(gut-brain axis)」と呼ばれます。なかでも鍵を握るのが、腸内細菌がつくり出す短鎖脂肪酸(食物繊維などを分解してつくる成分)です。代表格の酪酸※は、腸のバリア機能を支えるとともに、抗炎症的に働くことが報告されています4 5。
つまり、腸内細菌のバランスが崩れると、腸のバリアがゆるみ、炎症シグナルが全身や脳へ波及しやすくなります。逆に、酪酸をつくる菌が増えれば、脳の炎症を抑える方向に働く可能性があります。これが「腸-脳軸」の考え方です6。今回紹介する研究は、この観点からNMNの脳保護作用を検証しています。
用語解説
- 酪酸
- 短鎖脂肪酸の一種。腸の状態を整え、炎症をしずめる方向に働くとされる成分
【研究紹介】D-ガラクトース老化マウスでNMNの脳保護作用を検証
2026年に Metabolites に掲載された本研究は、加齢モデルマウスを用いて、NMNが認知機能・酸化ストレス・神経炎症・腸内細菌のバランスに与える影響を多面的に調べました。
研究デザイン
- モデル: D-ガラクトース※を6週間、皮下(皮膚の下)に注射して作製した老化モデルマウス
- 介入: D-ガラクトース投与と並行して、NMNを口から投与(300mg/kgまたは500mg/kg)
- 認知機能の評価: Y迷路試験(空間記憶)、高架式十字迷路試験(不安様行動)
- 生体指標の測定: 酸化ストレス指標、炎症性サイトカイン、Nrf2/HO-1経路の構成因子を、ELISA・ウエスタンブロット・免疫組織化学(いずれもタンパク質の量や分布を調べる実験手法)で測定
- 腸内細菌の解析: 腸内細菌の種類を丸ごと調べる解析(16S rRNA遺伝子シーケンス)
D-ガラクトースの慢性投与は、酸化ストレスを介して加齢に似た認知機能の低下を再現する手法として、老化研究で広く用いられています7。
用語解説
- D-ガラクトース
- 体内にもともと存在する糖の一種。大量に与えると酸化ストレスを介して老化に似た状態を引き起こすため、老化研究のモデル作製に使われます。
研究結果
1. 空間記憶が改善(不安様行動には影響なし)
NMNを投与したマウスでは、Y迷路試験で評価される空間記憶が改善しました。一方で、高架式十字迷路試験で評価される不安様行動には変化が認められませんでした。NMNの作用が、不安などの気分の面ではなく、記憶の面に向いていた可能性がうかがえます。
2. 抗酸化酵素が増加し、酸化ストレスが低下
NMNは、からだに備わる抗酸化酵素(SOD・GSH・CAT)の働きを高め、酸化ストレスの指標であるマロンジアルデヒド(MDA)を低下させました。加齢にともなって傾いていた「酸化-抗酸化バランス」を、抗酸化側へ押し戻す方向に働いたと考えられます。
3. 神経炎症の軽減
NMNは炎症性サイトカイン(免疫細胞が出す、炎症を引き起こすタンパク質)の濃度を低下させるとともに、海馬におけるミクログリアの活性化を抑制しました。海馬は記憶に深く関わる脳領域であり、ここでの炎症の軽減が記憶機能の改善につながった可能性が示唆されます。
4. 腸内細菌のバランスが変化(酪酸をつくる菌の増加)
16S rRNA解析では、NMNが腸内細菌のバランスを変え、酪酸をつくる菌(Butyrivibrio_A や Clostridium_T など)を増加させたことが示されました。前段で触れた「腸-脳軸」の観点から見ると、酪酸をつくる菌の増加は、抗炎症的な腸内環境へのシフトを示す変化と解釈できます。
5. Nrf2/HO-1経路の活性化
さらにNMNは、抗酸化防御の司令塔となるタンパク質Nrf2(必要な防御の遺伝子に一斉にスイッチを入れる役割)と、その指示で働く抗酸化酵素HO-1(ヘムオキシゲナーゼ1)の経路を活性化しました。Nrf2は、抗酸化・解毒・抗炎症の遺伝子群を一斉に立ち上げる「防御司令塔」とも呼ばれる分子です8(詳しくはNrf2の解説記事をご覧ください)。NMNがこの経路を後押ししたことは、結果2・3で見られた抗酸化・抗炎症作用と整合的な所見といえます。
考察:腸-脳軸とNrf2/HO-1経路が示す可能性
NMNの「二つの入り口」
今回の結果を一つの流れとして眺めると、NMNは2つの経路から脳に働きかけている可能性が見えてきます。一つは、NAD+を補い、Nrf2/HO-1経路を介して脳内の酸化ストレスと炎症を直接抑える経路。もう一つは、腸内細菌のバランスを整えて酪酸をつくる菌を増やし、腸-脳軸を通じて脳の炎症環境を改善する経路です。
この「全身の代謝」と「腸内環境」の両面から働く可能性は、NMNが腸内細菌と連携してNAD+を高めるという既報の知見とも整合します。腸を一つの舞台としてNMNの作用を捉える視点は、今後の研究での検証が期待される領域です。
マウス研究としての位置づけと限界
一方で、本研究はマウスを対象とした基礎研究である点に注意が必要です。D-ガラクトースによる老化モデルは加齢の一側面を再現する手法ですが、ヒトの自然な加齢や認知症のすべてを写し取るものではありません。また、マウスで用いられた投与量(300mg/kgまたは500mg/kg)をヒトにそのまま当てはめることはできません。
したがって、現時点で言えるのは「NMNが加齢モデルマウスで脳保護的に働き、その背景に腸-脳軸とNrf2/HO-1経路が関与していると報告された」ということまでです。ヒトで同じ効果が得られるかどうかは、今後の臨床研究による検証を待つ必要があります9 10。
まとめ
- 加齢による認知機能の低下には、脳にたまる酸化ストレスと慢性的な神経炎症が関わると考えられている
- 近年は、腸内細菌と脳をつなぐ「腸-脳軸」も、脳の炎症環境に関わる経路として注目されている
- 本研究では、加齢モデルマウスにNMNを6週間経口投与し、空間記憶の改善、抗酸化酵素の増加、神経炎症の軽減、酪酸をつくる菌の増加、Nrf2/HO-1経路の活性化が報告された
- NMNは「全身の代謝」と「腸内環境」の2つの経路から脳の保護に働く可能性が示唆された

いま私たちにできること
酪酸をつくる腸内細菌は、食物繊維や発酵食品を含むバランスのよい食事で育まれるとされています。まずは腸内環境を意識した生活から始めてみるのもひとつの選択肢です。NMNとNAD+の関係をもっと知りたい方はこちらの記事もどうぞ。
本記事を読むうえでの注意
本記事は、最新の研究動向を解説するものであり、特定のサプリメント製品の使用や効果を推奨するものではありません。紹介した研究はマウスを対象とした基礎研究であり、ヒトにおける有効性・安全性を保証するものではありません。
[ 引用・参考文献 ]
本記事の主要論文
- Zang et al. Targeting the Gut–Brain Axis: Protective Effects of NMN in Alleviating D-Galactose-Induced Cognitive Deficits. Metabolites. 2026; 16(5): 314. DOI
本文中の引用
- Neuroinflammation in the Normal Aging Hippocampus. Neuroscience. ↩︎
- NAD+ in Aging: Molecular Mechanisms and Translational Implications. ↩︎
- The Science Behind NMN — A Stable, Reliable NAD+ Activator and Anti-Aging Molecule. ↩︎
- The Role of Short-Chain Fatty Acids From Gut Microbiota in Gut-Brain Communication. Frontiers in Endocrinology. 2020. ↩︎
- Short-chain fatty acids: Important components of the gut-brain axis against AD. Pharmacological Research. ↩︎
- Elucidating the specific mechanisms of the gut-brain axis: the short-chain fatty acids–microglia pathway. Journal of Neuroinflammation. 2025. ↩︎
- Geraniol attenuates oxidative stress and neuroinflammation-mediated cognitive impairment in D-galactose-induced mouse aging model. Aging. 2024. ↩︎
- A Perspective on Nrf2 Signaling Pathway for Neuroinflammation: A Potential Therapeutic Target in Alzheimer’s and Parkinson’s Diseases. Frontiers in Cellular Neuroscience. 2021. ↩︎
- The Safety and Antiaging Effects of Nicotinamide Mononucleotide in Human Clinical Trials: an Update. Advances in Nutrition. ↩︎
- Chronic nicotinamide mononucleotide supplementation elevates blood NAD levels and alters muscle function in healthy older men. npj Aging. 2022. ↩︎