NMNは免疫性血小板減少症に効くのか ― 第1/2相試験が示したこと
血液中の血小板が減って出血が止まりにくくなる「免疫性血小板減少症(ITP、旧称:特発性血小板減少性紫斑病)」は、ステロイドが効きにくい患者さんでは治療の選択肢が限られる病気です。そうしたなか、エイジングケア成分として知られるNMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)を用いた臨床試験の結果が、2026年に国際的な医学誌『Nature Medicine』で報告されました。この記事では、その研究が「何を確かめ、どこまで言えるのか」を、論文の一次情報にもとづいて整理します。結論を先取りすると、安全性は良好だった一方で、効果のほどはまだ「手がかりが得られた」という段階にとどまり、はっきり確かめるには今後の比較試験が必要です。

この記事でわかること
- 免疫性血小板減少症(ITP)とはどんな病気で、なぜ治療が難しい場合があるのか
- ITP研究でNMNが注目される理由 ― 「CD38」と「NAD+」のつながり
- 動物実験で示された、血小板が壊されるしくみとNMNの作用
- ヒトを対象にした第1/2相試験のデザインと結果(安全性・血小板応答)
- この研究の意義と限界、読むうえでの注意点
免疫性血小板減少症(ITP)とは ― 血小板を自分で壊してしまう病気
ITPは、本来は細菌やウイルスから体を守るはずの免疫が、自分自身の血小板を誤って攻撃し、破壊してしまう自己免疫疾患※です。血小板は出血を止める役割を担っているため、数が減るとあざ(紫斑)や点状出血、歯ぐきや鼻からの出血が起こりやすくなります。日本では指定難病に定められています1。
用語解説
- 自己免疫疾患
- 本来は外敵を攻撃する免疫が、自分自身の組織を誤って攻撃してしまうことで起きる病気の総称。
成人のITPは、短期間で治るケースばかりではなく、血小板が少ない状態が長く続いたり、いったん改善しても再び悪化したりすることがあります。最初の治療としては副腎皮質ステロイドが使われますが、ステロイドの効きが不十分な「ステロイド抵抗性」や、減量すると再発してしまう「ステロイド依存性」の患者さんも少なくありません。こうした方々にとって、免疫全体を抑え込みすぎない新しいアプローチが求められてきました。
鍵は「CD38」と「NAD+」 ― なぜITP研究にNMNが登場するのか
ITP研究にNMNが登場する背景には、「CD38」と「NAD+」という2つの物質の関係があります。
研究チームはこれまでに、「抗CD38抗体」と呼ばれる薬が、難治性のITPで血小板数を3日以内という速さで回復させることを報告していました(本研究チームの先行報告による)。ただし、なぜ血小板が増えるのか、その仕組みははっきりしていませんでした。
ここで鍵になるのがCD38という酵素です。CD38は、細胞のエネルギー代謝に欠かせない補酵素※「NAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)」を分解する性質を持っています2。また、NAD+は加齢とともに減少していくこともわかっています3。CD38とNMNの関係については、以前せっかくのNMNが分解される? ― 加齢で増える酵素「CD38」の正体と対策でも取り上げました。あわせて読むと、今回の研究の背景がより立体的に見えてきます。
用語解説
- 補酵素
- 酵素が働くときにその動きを助ける物質のこと。
そしてNMNは、このNAD+のもとになる前駆体※です。「CD38がNAD+を減らすなら、NMNでNAD+を補えば状況が変わるのではないか」――研究はこの発想から出発しています。
用語解説
- 前駆体
- ある物質が生成される前段階の物質のこと。
動物実験で見えたメカニズム
NMNがITPに働きかけうる根拠は、まずマウスの実験で示されました。
本研究のマウス実験では、まずCD38がNAD+を分解し、細胞内のNAD+が不足する状況をつくりました。すると、免疫細胞であるマクロファージ※が炎症を起こしやすい「M1型」へと偏り、抗体を捕まえる受け皿(受容体)であるFcγRI(エフシー・ガンマ・アール・ワン)が細胞の表面に増えることが示されました。FcγRIが増えると、抗体が付着した血小板をマクロファージが取り込みやすくなり、血小板の破壊が進みます。研究チームは、この流れがITPで血小板数が減少する一因だと考えています。
用語解説
- マクロファージ
- 異物や老廃物を取り込んで処理する免疫細胞の一種。
一方、CD38の働きを抑えるか、NMNを投与してNAD+を回復させると、マクロファージのM1型への偏りが弱まり、FcγRIが減りました。その結果、マクロファージによる血小板の取り込みが抑えられ、血小板数の減少が防がれました。さらに、卵白に含まれるタンパク質で免疫をわざと刺激したマウスにNMNを投与しても、異物(抗原)に対して抗体をつくる力は落ちませんでした。これは、体液性免疫※のような必要な免疫機能を保ちながら、血小板の破壊だけを和らげられる可能性を示しています。免疫全体を広く抑え込む従来の治療とは異なる点として、注目されました。
用語解説
- 体液性免疫
- 抗体をつくって細菌やウイルスに対処する免疫のしくみ。
ヒトでの第1/2相試験 ― デザインと評価項目
動物実験で得られた結果をもとに、研究チームは次に、実際のITP患者を対象にNMNを投与し、安全性と血小板数への効果の手がかりを調べる初期段階の臨床試験(第1/2相試験※)を行いました。
用語解説
- 第1/2相試験
- 薬の候補を人に投与する初期段階の臨床試験。健常人に対して安全性を確認する第1相試験と、患者を対象に効果の見込みを調べる第2相試験の要素をあわせて行う。
試験デザイン
この試験は、比較のためのプラセボグループを置かず、参加者全員にNMNを投与する単群・非盲検(オープンラベル)※の第1/2相試験として実施されました(ClinicalTrials.gov番号:NCT06776510)4。対象は、ステロイド抵抗性またはステロイド依存性の成人ITP患者25名です。参加者には、経口NMNを1回450mg・1日2回(合計900mg/日)、2週間にわたって投与しました。
用語解説
- オープンラベル
- 参加者・医師ともに、どの治療を受けているかを把握している試験形式。本試験では比較のための対照群を置いていない。
主要評価項目
この試験では、NMNを評価するために、あらかじめ2つの確認ポイントが決められました。1つ目は、重い副作用が出ないか、参加者が問題なく服用を続けられるかという安全性と忍容性※です。2つ目は、血小板数が実際に増えるかどうかです。具体的には、2週間以内に血小板数が5万/μL(50×10⁹/L)以上になり、その状態が1日以上あけた2回の検査で確認できた場合を「血小板応答」としました。ただし、TPO受容体作動薬※やステロイドを追加・増量したり、緊急の補助治療を行ったりして血小板数が増えた場合は、NMNによる血小板応答とはみなされないとしました。
用語解説
- 忍容性
- 薬の副作用などにどの程度耐えられるかを示す指標。
- TPO受容体作動薬
- 血小板の産生を促すタイプのITP治療薬。
試験結果 ― 安全性と血小板への効果
試験の結果は、安全性と有効性の両面から報告されています。
安全性
安全性については、大きな問題は報告されませんでした。NMNの投与量を減らしたり中止したりする必要があるような重い副作用(用量制限毒性※)や、治療に関連する重篤な有害事象は認められませんでした。治療に関連すると考えられる軽い有害事象は参加者の12%にみられ、軽症(グレード1)の感染症は参加者の8%にみられました。また、抗体として働く免疫グロブリン※の値は大きく変わらず、抗体をつくる免疫のしくみが保たれていたことを示す結果でした。
用語解説
- 用量制限毒性
- それ以上投与量を増やせないと判断されるような、重い副作用のこと。
- 免疫グロブリン
- 抗体として働くタンパク質。
血小板への効果
血小板数については、25名のうち5名(20%)が、あらかじめ決められていた「血小板応答」の基準を満たしました。つまり、NMNを投与したあとに、一定以上まで血小板数が増えた患者が一部にいたということです。
一方で、この結果は慎重に見る必要があります。主要評価項目(試験で最も重視する評価ポイント)とは別の参考データとして、患者の60%で治療中に血小板数が投与前の1.5倍以上になり、患者の52%では8週時点まで反応が続いたと報告されています。ただし、これらはあくまで参考的な手がかりにすぎず、この試験だけで効果を断定することはできません。
小規模な試験ながら、大きな安全性の問題が少なかったことに加え、一部の患者で血小板数の改善がみられた点が、この研究の特徴です1。
この研究をどう読むか ― 意義と限界
今回の結果は、「NMNがITPに効く」と結論づけるものではありません。この試験は参加者が25名と少なく、NMNを投与しない比較グループもありませんでした。また、医師も患者もNMNが投与されていることを知ったうえで行われた試験でした。そのため、効果の大きさや持続性を正確に判断するには、プラセボ対照グループを置いた、より大規模な試験が必要です。
それでも研究チームは、CD38–NAD+のつながりがITPの新しい治療標的になる可能性があると考えています。NMNは、免疫細胞そのものを取り除くのではなく、細胞の代謝を整えることで血小板の破壊を抑える可能性があります。その点で、今後さらに検証する価値があるアプローチと位置づけられています。NMNがどのようにNAD+を高めるのかについては、別の角度からNMNは腸内細菌を介してNAD+を高める ― 最新研究が示した新しいメカニズムでも解説しています。
まとめ
- ITPは免疫が自分の血小板を破壊してしまう病気で、ステロイドが効きにくい場合は選択肢が限られる。
- 背景にはCD38がNAD+を分解し、マクロファージを介して血小板が壊されるというしくみがあると考えられている。
- 第1/2相試験では、NMNが良好な安全性を示し、25名中5名(20%)が血小板応答を達成した。
- ただし単群・非盲検でn=25の小規模試験であり、効果の確定には対照群を置いた大規模な比較試験が必要。
本記事を読むうえでの注意
この記事は医学研究の内容を紹介するものです。試験で用いられたNMNは医師の管理下にある臨床試験での使用であり、特定の量のサプリメントが病気を治療・予防することを示すものではありません。とくに、試験で用いられた1日900mgという用量は医師の管理下で設定されたものであり、市販のサプリメントを自己判断で同じように摂取することは想定されていません。ITPをはじめとする病気の治療については、必ず医療機関にご相談ください。
[ 引用・参考文献 ]
本記事の主要論文:
Li, H., Xu, Y., Chen, Y. et al. Low-dose oral nicotinamide mononucleotide for immune thrombocytopenia: a phase 1/2 trial. Nat. Med. (2026). DOI
- 難病情報センター「特発性血小板減少性紫斑病(ITP)」. ↩︎
- Sauve AA, Munshi C, Lee HC, Schramm VL. The reaction mechanism for CD38. A single intermediate is responsible for cyclization, hydrolysis, and base-exchange chemistries. Biochemistry. 1998;37:13239–13249. ↩︎
- Migaud ME, Ziegler M, Baur JA. Regulation of and challenges in targeting NAD+ metabolism. Nat Rev Mol Cell Biol. 2024;25:822–840. ↩︎
- ClinicalTrials.gov. NCT06776510. https://clinicaltrials.gov/study/NCT06776510 ↩︎