NMNは髪を太く育てるのか ― 中高年女性の発毛・毛髪の太さを検証した初のヒト臨床研究
「髪のボリュームが減ってきた」「ハリやツヤが落ちてきた」「抜け毛が気になる」年齢を重ねるにつれてそんな変化に悩む方は少なくありません。髪は見た目の印象を大きく左右するため、加齢にともなう髪の変化は多くの人にとって切実なテーマです。
こうした髪の変化の背景として着目しているのが、加齢とともに減っていく補酵素NAD+と、その前駆体であるNMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)です。本メディアではこれまで、NAD+がなぜ重要なのかやNMNがどのようにNAD+を高めるのか、さらに認知機能や卵子の質への影響など、NMNをさまざまな角度から取り上げてきました。
そのNMNについて、これまで肌のうるおいや弾力の改善は報告されていましたが2、ヒトの「髪」に対する影響を調べた臨床研究はありませんでした。今回ご紹介するのは、中高年女性を対象にNMNの経口摂取が髪に与える影響を検証した研究です。研究者らによれば、ヒトの髪でNMNの影響を調べた初めての臨床研究とされ、2025年に学術誌 Cosmetics に掲載されました3。
この記事でわかること
- 加齢で髪が変化する背景 ― 毛周期とNAD+の関係
- NMNが毛髪研究で注目される理由(サーチュイン・ミトコンドリア)
- 中高年女性15名を対象とした12週間の摂取試験のデザインと結果
- この研究の意義と限界、読むうえでの注意点
なぜ加齢で髪は変わるのか ― 毛周期とNAD+
まず、髪が生え変わるしくみを整理しておきます。髪には毛周期(ヘアサイクル)※と呼ばれるリズムがあり、成長期・退行期・休止期という3つの段階を繰り返しています。健康な髪は成長期に太く長く育ちますが、加齢やストレス、栄養状態の乱れによってこのサイクルが乱れると、髪が細くなったり、ボリュームが失われたりすることが指摘されています。
用語解説- 毛周期(ヘアサイクル)
- 髪が成長期(活発に伸びる時期)・退行期・休止期を繰り返すリズム。加齢などで乱れると髪が細くなりやすい。
また、こうした毛周期を保つには、髪をつくる細胞が活発に働き続ける必要があります。その働きを支える補酵素※NAD+が加齢とともに減っていくこと1も、髪の変化の背景の一つとして指摘されています。
用語解説- 補酵素
- 酵素の働きを助ける物質のこと。
NMNが毛髪研究で注目される理由 ― サーチュイン・ミトコンドリア
では、なぜそのNMNが「髪」で注目されるのでしょうか。NMNがNAD+を補い、ミトコンドリア※でのエネルギー産生やDNA修復、抗酸化防御を後押ししうることは、これまでの記事で紹介してきたとおりです。こうした全身での働きが、髪にも及ぶのかが問われてきました。
用語解説- ミトコンドリア
- 細胞の中でエネルギー(ATP)をつくる小器官。
実際に、マウスや培養細胞を使った研究では、NMNが男性ホルモンの一種であるDHT※によって引き起こされる毛包※の萎縮や、毛乳頭細胞の炎症を抑えることが報告されていました4。ただし、ヒトの髪で確かめた研究はありませんでした。そこで研究チームは、加齢による髪の悩みを抱えやすい中高年女性を対象に、NMNの経口摂取が髪に与える影響を検証しました。
用語解説- DHT(ジヒドロテストステロン)
- 男性型の脱毛に関わるとされる男性ホルモンの一種。
- 毛包
- 髪の毛をつくり育てる、皮膚の中の袋状の組織。その根元にある毛乳頭細胞が髪の成長を司る。
【研究紹介】中高年女性15名・12週間のNMN経口摂取試験
2025年に Cosmetics に掲載された本研究は、髪に悩みを持つ健康な日本人女性を対象に、NMNの経口摂取が毛髪の状態や関連する代謝に与える影響を多面的に調べたものです3。
研究デザイン
- 対象:髪の悩み(薄毛、ハリ・ツヤの低下など)を持つ健康な40〜50代の日本人女性15名
- 介入:NMNサプリメントを1日500mg、12週間にわたり経口摂取。比較のためのプラセボ群を置かない単群・非盲検※の試験
- 毛髪の評価:TrichoScan※による毛髪密度の測定、走査型電子顕微鏡(SEM)※による毛髪の太さ・表面の観察
- 成分・ホルモンの測定:毛髪のメタボローム解析※、毛髪中ホルモン濃度の測定
- 主観評価:疲労感や髪の質感などをVAS※で評価
用語解説- 単群・非盲検(オープンラベル)
- 比較のための対照群を置かず、参加者全員が同じ介入を受け、参加者・医師ともに内容を把握している試験形式。
- TrichoScan
- 頭皮を撮影し、毛髪の密度や太さ、成長段階を解析する装置。
- 走査型電子顕微鏡(SEM)
- 試料の表面を拡大して観察する顕微鏡。
- メタボローム解析
- 試料に含まれる代謝物を網羅的に測定する手法。
- VAS
- ものさしのような線上に印をつけて、感覚の程度を数値に置き換える評価法。
研究結果
1. 成長期の毛の伸び(発毛密度)が増加
NMNを12週間摂取したあと、剃毛から3日後に測定した成長期の毛の伸び(発毛密度)が、1平方センチあたり55.9本から87.7本へと有意に増加しました(p=0.03)。とくに、直径40µm以上の終毛(しっかりとした太い毛)の伸びが38.6本から66.2本へと大きく増えており、太い毛ほど伸びが目立ちました(p<0.01)。
2. 毛髪の直径が増加・キューティクルの状態も改善
SEMによる観察では、毛髪の直径が平均75.3µmから78.8µmへと有意に増加しました(p<0.01)。解析対象13名のうち11名で太さの増加がみられています。あわせて、髪の表面を覆うキューティクル※の状態も改善していました。前段の発毛密度の結果とあわせると、NMN摂取後に髪が「太く」「しっかり」する方向の変化がうかがえます。
用語解説- キューティクル
- 髪の表面をうろこ状に覆う組織。整っているとツヤやなめらかさにつながる。

3. 毛髪成分の変化 ― アミノ酸・エネルギー代謝関連
前段の見た目の変化を、成分の面から裏づけるのが毛髪のメタボローム解析の結果です。NMN摂取後には、トリプトファンやグルタミン酸などのアミノ酸、クレアチンやカルニチンといったエネルギー代謝に関わる成分が有意に増加し、一方で乳酸が減少していました。これらは、ミトコンドリアでのエネルギー産生やアミノ酸代謝が高まった可能性を示す変化と考えられています。なお、毛髪中のNMNやNAD+そのものは検出限界以下でしたが、NMNの代謝物(ニコチンアミドリボシドなど)は摂取後に一部の人で検出されました。
4. 毛髪ホルモン濃度には明確な変化なし
一方で、毛髪中のホルモン(コルチゾール、テストステロン、プロゲステロン)の濃度については、摂取前後で統計的に意味のある変化は認められませんでした。研究チームは、個人差が大きいことや、対象人数が少なく期間も短かったことが、変化を捉えにくかった一因ではないかと述べています。
5. 主観評価(VAS)の改善 ― ハリ・ツヤ・ボリューム、疲労感
参加者自身の感覚を評価したVASでは、髪のハリ・とかしやすさ・ツヤ・ボリュームがいずれも有意に向上し、白髪の気になり方、分け目の目立ち、起床時やシャンプー時の抜け毛の実感、そして疲労感が有意に軽減しました(いずれもp<0.01)。客観的な測定結果と、参加者の実感が同じ方向を向いていた点が、この研究の特徴です。
考察 ― NMNは髪にどう働きうるか
総毛数の減少をどう読むか
ここまでは前向きな結果を紹介してきましたが、総毛数(毛髪密度全体)は摂取後にむしろ減少していました。研究チームは、これがNMNの影響である可能性は否定できないとしつつも、試験期間が9〜12月にあたることから、夏の紫外線ダメージによる季節性の抜け毛の影響ではないかと推測しています5。実際、日本人では9月ごろに抜け毛が増えるという報告があります。総毛数が減る一方で成長期の太い毛の伸びは増えており、研究チームは「新しい産毛を増やすというより、既存の太い毛を育てる方向に働いた可能性」を考察しています。
サーチュイン・ミトコンドリアを介した作用の可能性
では、NMNはどのようなしくみで髪に働きうるのでしょうか。研究チームは、その背景にサーチュイン※という長寿関連タンパク質やミトコンドリア機能の関与を挙げています。過去の動物研究では、NAD+を高めることで毛包の幹細胞が活性化して発毛が促されることや、サーチュインが毛周期の進行に関わることが報告されています46。今回みられたアミノ酸・エネルギー代謝の変化も、こうした経路の活性化と整合的だと考察されています。
用語解説- サーチュイン
- NAD+を使って働く、長寿や代謝に関わるとされるタンパク質群。
疲労感の軽減と主観的満足のつながり
興味深いことに、髪の実感の改善とあわせて疲労感の軽減もみられました。研究チームは、NMNがNAD+を高めてミトコンドリア機能や基礎代謝を支えることで疲労感がやわらぎ、それが髪に対する前向きな実感にもつながった可能性があると考察しています。ただしこれは主観評価にもとづく解釈であり、確かなメカニズムの解明は今後の課題です。
この研究の位置づけと限界
本研究は、ヒトを対象にNMNの髪への影響を調べた初期段階の貴重な報告です。ただし、参加者が15名と少なく、比較のためのプラセボ群を置かない単群・非盲検の試験である点、期間が3ヶ月と短い点、季節の影響を受けている点など、いくつかの限界があります。結果は中高年の日本人女性という対象を超えて一般化できるものではなく、今後はプラセボ対照を置いた、より大規模で長期の研究による検証が求められます。
いま私たちにできること
今回の研究は初期段階のものですが、髪の健康を考えるうえでのヒントも含まれています。研究結果や毛周期のしくみを踏まえると、日々の生活では次のような点が土台になります。
- 紫外線対策を習慣にする:本研究では、夏の紫外線ダメージが秋の抜け毛(総毛数の一時的な減少)に影響した可能性が指摘されています5。帽子や日傘で頭皮と髪を守ることは、季節性の抜け毛への対策として理にかなっています。
- 髪の材料となる栄養をとる:髪はおもにタンパク質からできており、今回の研究でも髪の中でアミノ酸やエネルギー代謝に関わる成分の増加がみられました。肉・魚・卵・大豆などのタンパク質をしっかりとることが、髪づくりの基本になります。
- NAD+・ミトコンドリアを支える生活を意識する:髪をつくる細胞のエネルギー産生を下支えするNAD+は、加齢だけでなく生活習慣の影響も受けます。十分な睡眠や適度な運動は、全身のエネルギー代謝を保つうえでも役立ちます。
NMNそのものについては、髪への効果はまだ研究が始まったばかりの段階です。過度に期待しすぎず、まずは上記のような生活の土台を整えたうえで、最新の研究動向を見守っていくのがよいでしょう。抜け毛や薄毛が急に進むなど気になる変化があるときは、皮膚科などの医療機関に相談することをおすすめします。
まとめ
- 加齢による髪の変化の背景には、毛周期の乱れと、加齢で減少する補酵素NAD+の関与が考えられている
- 本研究では、中高年女性15名にNMNを1日500mg・12週間摂取してもらい、成長期の毛の伸びと毛髪の直径が有意に増加した
- 毛髪成分ではアミノ酸・エネルギー代謝関連の変化がみられ、主観的にもハリ・ツヤ・ボリュームの向上や疲労感の軽減が報告された
- ただし単群・非盲検でn=15の小規模研究であり、効果を確かめるには対照群を置いた大規模・長期の研究が必要
本記事を読むうえでの注意
本記事は最新の研究動向を紹介するものであり、特定のサプリメント製品の使用や効果を推奨するものではありません。紹介した研究は少人数・単群の初期的な臨床研究であり、髪や体に関する特定の効果を保証するものではありません。髪や体の悩みについては、必要に応じて医療機関にご相談ください。
[ 引用・参考文献 ]
- Chu, X.; Raju, R.P. Regulation of NAD+ Metabolism in Aging and Disease. Metabolism. 2022. ↩︎
- Morita, Y. et al. Clinical Evaluation of Changes in Biomarkers by Oral Intake of NMN. Glycative Stress Res. 2022. ↩︎
- Fukumoto, S. et al. Oral Supplementation of Nicotinamide Mononucleotide (NMN) Improves Hair Quality and Subjective Perception of Hair Appearance in Middle-Aged Women. Cosmetics. 2025; 12(5): 204. ↩︎
- Xu, C. et al. β-Nicotinamide Mononucleotide Promotes Cell Proliferation and Hair Growth by Reducing Oxidative Stress. Molecules. 2024; 29: 798. ↩︎
- Kita, F. et al. Evaluation Method of the Hair Growth Promoter Based on Dynamics of Fall Hairs. Skin Res. 1989. ↩︎
- Li, G. et al. SIRT7 activates quiescent hair follicle stem cells to ensure hair growth in mice. EMBO J. 2020. ↩︎