せっかくのNMNが分解される? ― 加齢で増える酵素「CD38」の正体と対策

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投稿日:2026.05.22  |  更新日:2026.05.22  |  約13分で読めます

NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)は、加齢とともに減少する補酵素NAD+の前駆体として、近年特に注目を集めている成分の一つです。複数のヒト臨床試験で有効性が報告され1 2 3 4、研究が着実に進んでいます。NMNが補う対象であるNAD+の減少は、老化に関わる12の要因(AGING HALLMARKS)の複数に深く関与しており、健康長寿を考える上で避けては通れないテーマです。

老化さん 用語解説
前駆体
体内でNAD+に変換される原料となる物質。

しかし、NMNを取り巻くエビデンスが蓄積される一方で、ある重要な問いが浮上しています。せっかく補充したNMNやNAD+が、体内で効率よく維持されているのか? その答えのカギを握るのが、今回ご紹介する酵素「CD38」です。CD38は加齢とともに増加し、NAD+だけでなく、その前駆体であるNMNまでも分解してしまうことが明らかになっています。本記事では、CD38の働きと増加メカニズムを最新の研究成果をもとに解説し、NMN補充をより深く理解するための新たな視点をご紹介します。

この記事でわかること


CD38とは?

CD38(Cluster of Differentiation 38)は、もともと免疫細胞の表面にあるタンパク質として発見されました5。近年の研究では、CD38が免疫細胞・脂肪組織・肝臓などで、NAD+を分解する酵素として働くことが明らかになっています。

CD38がNAD+を分解すると、ニコチンアミドなどの物質が生じます。ニコチンアミドは再びNAD+の材料として使われるため、CD38による分解は体内のNAD+代謝の一部ともいえます。

また、CD38はNAD+を分解する過程で、免疫細胞の活性化や炎症の調節に関わるシグナル物質も生み出します。つまりCD38は、NAD+を減らす一方で、免疫や炎症の調節に必要な役割も担っている酵素です6

老化さん 用語解説
ニコチンアミド
NMNの「N」にあたるビタミンB3の一種。

NAD+の低下にはPARP(DNA修復酵素)による消費やNAMPT(NAD+合成酵素)の発現低下など複数の要因が関わっていますが、なかでもCD38が注目されているのは、加齢とともにこの「NAD+を消費する力」が数倍規模で強まることが明らかになったためです。

CD38は加齢とともに増加する

2016年、米国メイヨークリニックのCamacho-Pereira博士らは、重要な発見を報告しました7。マウスを用いた実験で、加齢とともにCD38のタンパク質量が全身の組織で2〜3倍に増加し、これがNAD+低下の主要な原因であることを実証したのです。ヒトでも同様の傾向が確認されており、約34歳と約61歳の脂肪組織を比較したところ、CD38は最大2.5倍に増加していました7

さらに重要なことに、CD38を遺伝的に持たないマウス(CD38ノックアウトマウス)では、加齢に伴うNAD+の低下がほとんど起こらず、ミトコンドリアの機能も若い状態に保たれていました。この研究は、NAD+低下の主要因としてCD38を特定した最初の論文であり、その後のCD38と加齢の関連研究を大きく加速させました。

老化さん 用語解説
ミトコンドリア
細胞のエネルギーを作り出す小器官。

では、CD38はどのようにしてNAD+やNMNを減らしているのでしょうか。


CD38がNAD+・NMNを分解する3つのメカニズム

近年の研究により、CD38がNAD+代謝に介入する経路は一つではなく、少なくとも3つのメカニズムが明らかになっています。

① NAD+の直接分解(NADase活性)

CD38の最もよく知られた機能が、NAD+を直接分解する働きです。CD38はNAD+加水分解し、先述のニコチンアミドなどに分解します5。この反応により、細胞内のNAD+の蓄えが直接消費されます。

老化さん 用語解説
加水分解
水の力を使って物質の化学結合を切断する反応。

② NMNの細胞外分解(エクト酵素活性)

2020年、同じくメイヨークリニックのChini博士らは、CD38の「エクト酵素(細胞の外側で働く酵素)」としての活性に注目した研究を Nature Metabolism に発表しました8

この研究で明らかになったのは、加齢に伴い免疫細胞の表面にCD38が増加し、細胞の外側でNMNを分解してしまうという事実です。つまり、CD38は完成品(NAD+)だけでなく、原料(NMN)までも奪ってしまうのです。

③ 【2025年新発見】NMNの塩基交換反応

2025年、オーストラリア・ニューサウスウェールズ大学のMadawala博士らは、CD38がNMNに対してまったく新しい反応を触媒することを発見しました9

老化さん 用語解説
触媒
化学反応を促進すること。

CD38は、NMNのニコチンアミド部分をニコチン酸に入れ替え、NMNをNaMN(ニコチン酸モノヌクレオチド)に変換する「塩基交換反応」を行うことが示されたのです。NaMNはPreiss-Handler経路を経てNAD+に合成されうる物質であり、経口摂取されたNMNが腸内細菌によってこの経路で代謝されることも近年明らかになっています。

この発見の意義は、CD38がNMNを単に「壊す」だけではないことを示した点にあります。CD38は組織内でNMNの化学構造そのものを書き換えるという、これまで知られていなかった反応も持っていたのです。この変換がNAD+の最終的な産生効率にどう影響するかは、今後の検証が待たれます。

老化さん 用語解説
塩基交換反応
分子の一部(塩基)を別の物質に入れ替える化学反応。ここではNMNの「ニコチンアミド」が「ニコチン酸」に置き換わる。

ここまでのポイント ―― CD38がNAD+・NMNを減らす3つの経路

① NAD+を直接分解する(NADase活性)
② 細胞の外側でNMNを分解する(エクト酵素活性)
③ NMNの化学構造を書き換え、別の代謝物(NaMN)に変換する(塩基交換反応)


加齢でCD38が増えるメカニズム ― 炎症と老化細胞の悪循環

CD38がNAD+低下の主要因であるとわかったところで、次に浮かぶ疑問は「なぜ加齢でCD38が増えるのか?」です。この問いに対する答えは、老化細胞と慢性炎症にありました。

老化細胞のSASPがCD38+免疫細胞を蓄積させる

2020年に Nature Metabolism に発表された2つの重要な研究8 10が、このメカニズムを解明しました。

加齢に伴い体内に蓄積する「老化細胞」は、SASP(細胞老化関連分泌現象)と呼ばれる現象を通じて、炎症性サイトカイン(IL-6やTNF-αなど)を周囲にまき散らします。この炎症シグナルが、マクロファージなどの表面にCD38を発現させ、CD38を大量に持つ免疫細胞(CD38+マクロファージ)が脂肪組織や肝臓に蓄積していきます。

実際に、老化細胞を除去するとCD38の発現が減少し、NAD+の低下が部分的に回復することも示されています8

老化さん 用語解説
SASP
老化した細胞が、炎症を引き起こす物質を周囲にまき散らす現象。英語では Senescence-Associated Secretory Phenotype。

サイトカイン
炎症や免疫の調節に関わるシグナル物質の総称。

マクロファージ
体内の異物を食べて処理する免疫細胞。

慢性炎症 → CD38増加 → NAD+低下 → さらなる機能低下

これらの知見を統合すると、加齢に伴うNAD+低下は次のような悪循環によって加速されていると考えられます。

この悪循環を断ち切るためには、NAD+の「原料を補充する」だけでなく、「分解を抑制する」という視点も重要になります。


CD38研究が示すNMN補充の新たな視点

CD38がNAD+・NMNを分解する主要因であることがわかった今、研究者たちは「CD38を抑制すれば、NAD+をより効率的に維持できるのではないか」という仮説に基づいた研究を進めています。

CD38阻害剤の研究動向

2018年、Tarragó博士らは、CD38を特異的に阻害する合成化合物「78c」を開発し、老齢マウスに投与した結果を報告しました11。78cは組織のNAD+レベルを回復させ、耐糖能、筋機能、運動能力、心臓機能など、加齢に伴って低下する複数の生理機能を改善しました。

老化さん 用語解説
耐糖能
血糖値を正常に保つ力。

この研究は、CD38阻害が老化関連の代謝機能低下を広範に改善しうることを示した重要な前臨床データです。

天然フラボノイドによるCD38抑制 ― アピゲニンとケルセチン

合成化合物の研究と並行して、天然由来の植物成分にもCD38阻害作用があることが明らかになっています。

2013年、メイヨークリニックのEscande博士らは、植物由来のフラボノイドであるアピゲニンケルセチンが、CD38のNADase活性を阻害することを発見しました12

老化さん 用語解説
フラボノイド
植物に含まれるポリフェノールの一種。
  • アピゲニンは、菊花(カモミールや食用菊)、パセリ、セロリなどに含まれるフラボノイドです。アピゲニンを肥満マウスに投与すると、CD38活性が抑制され、肝臓のNAD+レベルが上昇し、糖・脂質代謝が改善されました12
  • ケルセチンは、タマネギ、ブロッコリー、リンゴなどに含まれるフラボノイドで、CD38を阻害して細胞内のNAD+濃度を用量依存的に上昇させることが確認されています12。ケルセチンにはさらに、炎症を抑制する作用も報告されており、CD38増加の引き金となる慢性炎症そのものを軽減する可能性も示唆されています13

これらの天然フラボノイドは、合成阻害剤と比べて作用は穏やかですが、食品由来の成分として安全性の実績がある点が大きな特徴です。ただし、上記の研究で用いられた投与量は日常の食事から摂取できる量を上回る場合があり、食品摂取だけでCD38を十分に阻害できるかは今後の研究課題です。

NMN × CD38阻害成分

ここまでの研究を踏まえると、NMN補充をより深く理解するための視点が見えてきます。

NMN補充は、NAD+の「原料」を補給するアプローチです。しかし、せっかく補充したNMNやNAD+も、加齢で増加したCD38によって分解されてしまう可能性があります。であれば、「NMN(原料の補充)」と「CD38阻害成分(分解の抑制)」を組み合わせることで、NAD+をより効率的に維持できるのではないか――これが、最新の研究が示唆する新たな発想です。

二つの視点

NMN → NAD+の原料を補充(供給を増やす)

アピゲニン・ケルセチン → CD38を抑制し、NAD+の分解を防ぐ(消費を減らす)

→ 両方のアプローチを組み合わせることで、体内のNAD+をより効率よく維持できる可能性

実際に、2026年に発表された動物実験では、NMNとアピゲニンの併用投与が、それぞれの単独投与よりも効果的に老齢マウスの筋機能や骨密度を改善し、細胞老化のマーカーを減少させたことが報告されています14。この結果は、「原料補充 × 分解抑制」の二つのアプローチが相加的に働きうることを示すものです。

NMN補充を考える際に、CD38という「分解者」の存在を知り、それに対する天然由来の対策があることを理解しておくことは、エイジングケアについて考える上で重要な視点になるのではないでしょうか。


まとめ

加齢に伴うNAD+の減少は、老化のさまざまな側面に関わる重要な現象です。そしてその主因が、加齢・炎症とともに増加する酵素CD38であることが、この10年の研究で明らかになってきました。

CD38はNAD+を直接分解するだけでなく、NMNの細胞外分解や塩基交換反応など、複数のメカニズムでNAD+代謝に介入しています。さらに、老化細胞の蓄積と慢性炎症がCD38を増加させ、NAD+低下を加速するという悪循環も解明されつつあります。

こうした知見は、NMN補充の意義を最大限に活かすために、NAD+の供給を増やすだけでなく、CD38による分解を抑えるという視点も重要であることを示しています。菊花由来のアピゲニンやケルセチンといった天然フラボノイドによるCD38抑制は、その有力な手段の一つとして研究が進んでいます。日々の食生活にパセリやセロリ、タマネギ、ブロッコリーなどフラボノイドを豊富に含む食品を意識的に取り入れることは、NAD+維持の観点からも注目される習慣といえるでしょう。


[ 引用・参考文献 ]

  1. Yoshino, M. et al. Nicotinamide mononucleotide increases muscle insulin sensitivity in prediabetic women. Science 372, 1224–1229 (2021). ↩︎
  2. Liao, B. et al. Nicotinamide mononucleotide supplementation enhances aerobic capacity in amateur runners: a randomized, double-blind study. J. Int. Soc. Sports Nutr. 18, 54 (2021). ↩︎
  3. Igarashi, M. et al. Chronic nicotinamide mononucleotide supplementation elevates blood nicotinamide adenine dinucleotide levels and alters muscle function in healthy older men. npj Aging 8, 5 (2022). ↩︎
  4. Berven, H. et al. NR and NMN similarly raise NAD+ in healthy volunteers: a comparative crossover clinical trial. iScience 27, 114764 (2026). ↩︎
  5. Malavasi, F. et al. Evolution and function of the ADP ribosyl cyclase/CD38 gene family in physiology and pathology. Physiol. Rev. 88, 841–886 (2008). ↩︎
  6. Chini, E. N. et al. The pharmacology of CD38/NADase: an emerging target in cancer and diseases of aging. Trends Pharmacol. Sci. 39, 424–436 (2018). ↩︎
  7. Camacho-Pereira, J. et al. CD38 dictates age-related NAD decline and mitochondrial dysfunction through an SIRT3-dependent mechanism. Cell Metab. 23, 1127–1139 (2016). ↩︎
  8. Chini, C. C. S. et al. CD38 ecto-enzyme in immune cells is induced during aging and regulates NAD+ and NMN levels. Nat. Metab. 2, 1284–1304 (2020). ↩︎
  9. Madawala, R. et al. CD38 mediates nicotinamide mononucleotide base exchange to yield nicotinic acid mononucleotide. J. Biol. Chem. 301, 108185 (2025). ↩︎
  10. Covarrubias, A. J. et al. Senescent cells promote tissue NAD+ decline during ageing via the activation of CD38+ macrophages. Nat. Metab. 2, 1265–1283 (2020). ↩︎
  11. Tarragó, M. G. et al. A potent and specific CD38 inhibitor ameliorates age-related metabolic dysfunction by reversing tissue NAD+ decline. Cell Metab. 27, 1081–1095 (2018). ↩︎
  12. Escande, C. et al. Flavonoid apigenin is an inhibitor of the NAD+ase CD38: implications for cellular NAD+ metabolism, protein acetylation, and treatment of metabolic syndrome. Diabetes 62, 1084–1093 (2013). ↩︎
  13. Li, Y. et al. Quercetin, inflammation and immunity. Nutrients 8, 167 (2016).
    ↩︎
  14. NMN + apigenin (N+A) additively prevent tissue degeneration and enhance physical capacity in aged mice. Aging Cell (2026). ↩︎

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