U.E.N.O.Planとは? ― 厚生労働省が示した「攻めの予防医療」6つの重点領域をわかりやすく解説
厚生労働省は2026年7月23日、「U.E.N.O.Plan~攻めの予防医療厚生労働省関係施策~」を公表しました1。これは、2026年7月21日に閣議決定された「骨太方針2026」に盛り込まれた「攻めの予防医療」を具体化するための施策で、栄養や認知症など6つの領域を「直ちに取り組むべき第一弾の重点領域」として位置づけています1。
これまでの予防といえば、健康診断を「受けて待つ」イメージが中心でした。今回のプランは、そこから一歩踏み込み、行政などが能動的に関わることで、一人ひとりの行動変容を後押ししようとする点に特徴があります。本記事では、U.E.N.O.Planとは何か、なぜ今「攻めの予防」なのか、そして6つの重点領域で何が示されたのかを、わかりやすく整理します。
この記事でわかること
- U.E.N.O.Planとは何か ― 名称に込められた意味と公表の背景
- なぜ今「攻めの予防医療」が求められているのか
- 直ちに取り組む6つの重点領域と、それぞれの数値目標
- 6領域を支える共通基盤(AI予防医療モデルなど)
- このプランを、認知症・栄養の視点からどう読み解くか
U.E.N.O.Planとは
U.E.N.O.Planは、健康寿命※のさらなる延伸に向けて、国民一人ひとりが自身の健康を「自分ごと」として捉え、主体的に健康づくりに取り組めるようにすることを目的とした厚生労働省の施策です1。健康に関する情報を正しく理解し活用する力(健康リテラシー)の向上を図るとともに、それだけでは十分な効果が期待しにくい領域については、行政や保険者※などによる能動的な介入を強化する、という二段構えの考え方が示されています1。
用語解説- 健康寿命
- 医療や介護に大きく依存せず、心身ともに自立して生活できる期間。
- 保険者
- 健康保険組合や市区町村など、医療保険を運営する組織のこと。
「U.E.N.O」に込められた意味
「U.E.N.O」は、健康づくりに必要な4つの要素の頭文字を組み合わせた名称です。正式名称の副題では「Understand, Exercise, Nourish and Optimize for Better Health」と表現されています1。
- Understand(理解する):自身の健康状態やリスクを知る
- Exercise(体を動かす):運動・身体活動を取り入れる
- Nourish(栄養をとる):食生活を整える
- Optimize(最適化する):一人ひとりに合った形で対策を選ぶ
このプランは、上野賢一郎厚生労働大臣が公表したもので、大臣は公表後の記者会見で、健康寿命の延伸や社会保障を支える基盤の維持・強化に向けて取り組みを速やかに実施していく考えを示しています3。
なぜ今「攻めの予防」なのか
この背景には、日本の健康課題の構造があります。厚生労働省の資料によると、がんや循環器病をはじめとした生活習慣病は、死因の約5割、一般医療費の約3割を占めており、「栄養・食生活」も含めた対策が必要とされています2。
さらに、健康寿命が延び、死因に占める老衰の割合が増える中で、人生100年時代をよりよく生きるための「認知症対策」や「リハビリテーションの推進」の重要性も高まっています2。全身の健康にもつながる「歯と口腔の健康」や、就労やキャリア形成に影響する更年期症状など女性の健康課題への対応も求められています2。
たとえでいうと、これまでの予防は、相手の攻撃を待って守る受け身の姿勢に近いものでした。今回のプランが目指すのは、前に出てボールを奪いにいく「攻めの守備」のように、リスクの段階から能動的に働きかける予防への転換です。こうした問題意識のもとで示されたのが、次に紹介する6つの重点領域です。

直ちに取り組む6つの重点領域
U.E.N.O.Planでは、以下の6領域が「直ちに取り組むべき第一弾の重点領域」として位置づけられました1。ここでは、それぞれの領域で何が示されたのかを見ていきます。
1. 栄養・食生活
2026年度内に、生活習慣病(悪性腫瘍、心疾患、脳血管疾患、糖尿病など)のリスク低減のための食事のポイントをまとめた「食事ガイド」を作成し、国民に周知するとされています。厚生労働省はこれを、生活習慣病等の疾病リスク低減を目的としたわが国初の「食事ガイド」と位置づけています2。
背景として、食塩摂取量(2024年)は男性10.5g/日、女性8.9g/日で、厚生労働省は日本が主要先進国の中で食塩摂取量が最も多いと指摘しています。また、野菜摂取量が350g未満の人の割合は男性73.8%、女性78.0%にのぼると報告されています2。
2. がん・循環器病等
がんについては、2028年度(令和10年度)までに受診率60%、精密検査受診率90%の達成を目標に掲げています。具体的には、職場でのがん検診の受診勧奨の強化、事業者と保険者の連携促進、自治体による職域を含めた受診状況の把握と未受診者への受診勧奨の徹底が挙げられています2。
循環器病については、2029年度(令和11年度)までに特定健診※の受診率70%の達成と受診勧奨の促進を目標とし、国立循環器病研究センターにおいて情報の一元化やポータルサイトを用いた情報発信に取り組むとされています2。なお、がんの死亡者数は年間約38.4万人(2024年)、循環器病(心疾患および脳血管疾患)の死亡者数は年間約32.9万人(2024年)と報告されています2。
用語解説- 特定健診
- メタボリックシンドロームに着目し、40〜74歳を対象に行われる健康診査。
3. 歯科保健
いわゆる「国民皆歯科健診」の具体化が示されました。希望する国民が毎年歯科健診を受けられるよう、自治体・医療保険者の双方で、簡易な検査ツールを活用した方法を「簡易歯科健診」として位置づけ、制度化する方針です。自治体では歯周病検診を5歳ごとに拡大し、職域では予防の取り組み実績に応じた保険者の負担金の加算・減算制度に簡易歯科健診を追加するとされています2。歯周病で治療を受けている患者数は1,135万4,000人と報告されています2。
4. 認知症
認知症の領域では、新たな検査技術であるバイオマーカー※をモデル的に活用し、早期診断と診断の層別化(症状や原因に応じた分類)、抗アミロイドβ抗体薬※などの治療効果を最大化するための検証研究を進めるとされています2。あわせて、かかりつけ医による認知症疾患医療センターへの適切な紹介の促進や、診断後の治療・支援へのつなぎのモデル的な取り組みにも注力する方針が示されています2。
用語解説- バイオマーカー
- 病気の有無や進行の程度を客観的に測るための、体内の指標となる物質。
- 抗アミロイドβ抗体薬
- 脳にたまるアミロイドβを標的とする、アルツハイマー型認知症の治療薬。
背景として、認知症および軽度認知障害(MCI)※の高齢者数は、2040年時点で認知症584.2万人、MCI 612.8万人と推計されています2。
用語解説- 軽度認知障害(MCI)
- 記憶などの機能が同年代より低下しているものの、日常生活は自立できている、認知症の前段階とされる状態。
5. リハビリテーション
リハビリテーションへの主体的な参加を支援するポータルサイト等の作成や、予防・医療・介護を通じた切れ目のないリハビリテーションの推進が掲げられています2。介護保険におけるリハビリテーションサービスの受給者数(2025年)は、通所リハビリテーションが60.0万人、訪問リハビリテーションが15.3万人と報告されています2。
6. 性差に由来するヘルスケア
更年期世代の女性を診療する一般診療医向けのガイダンス(男性中高年期の健康課題についても同様に作成)を用い、研修等を通じて共通的な考え方を周知するとともに、対応医療機関を検索できる取り組みを進めるとされています。厚生労働省はこれを、わが国初のガイダンスと位置づけています2。このほか、「女性の健康総合センター」におけるデータ収集・分析機能の充実や、職場健診の問診票への女性特有の健康課題に関する質問の追加なども示されています2。更年期症状を自覚し始めてから3か月以内程度で医療機関を受診した人の割合は、40歳代・50歳代で約1割(女性)と報告されています2。
6領域を支える共通基盤
これら6領域の取り組みを支える共通の基盤として、データヘルス※を基盤とした「AI予防医療モデル」の構築が挙げられています。保険者や地域の中小企業などにおける予防・健康づくりの取り組みを推進するため、保険者へのインセンティブの在り方を検討するとされています2。
用語解説- データヘルス
- 健診やレセプト(診療報酬明細書)などのデータを分析し、効果的な保健事業につなげる取り組み。
- コラボヘルス
- 事業主と保険者が連携し、従業員の健康づくりを進める取り組み。
あわせて、個人の予防・健康づくりを促す個人インセンティブの取り組みの推進や、健康経営の視点にも立った「事業主・保険者連携」(コラボヘルス※)の推進も示されています2。なお、予算規模や事業の詳細については、今後の予算編成過程で検討される方針です23。
このプランを、認知症・栄養の視点からどう読み解くか
6領域を通じて見えてくるのは、「症状が出てから対応する」のではなく、「リスクの段階で気づき、先回りする」という方向性です。この考え方は、私たちが日頃から注目している認知症の早期発見や、日々の栄養・食生活といったテーマと深くつながっています。
たとえば認知症領域で挙げられた「バイオマーカーを活用した早期診断」は、近年研究が進む血液検査とも関係します。症状が現れる前の段階で脳の変化を捉える指標については、関連記事「p-tau217とは?」や「アミロイドβとは?」で詳しく解説しています。また、栄養・食生活や生活習慣が体内の仕組みにどう関わるのかという視点は、「老化研究の最前線2026」でも整理しています。
こうした国の施策は、私たち一人ひとりにとって、自分の健康を見直すきっかけになり得ます。一方で、プランに示された数値目標や食事ガイドなどは、これからの予算編成や制度設計を経て具体化されていく段階にあります。今後どのような形で実装されていくのかを、引き続き注目していきたい取り組みです。
まとめ
- U.E.N.O.Planは、厚生労働省が「攻めの予防医療」を具体化するために公表した施策で、Understand・Exercise・Nourish・Optimizeの頭文字に由来する
- 背景には、生活習慣病が死因の約5割・一般医療費の約3割を占め、健康寿命の延伸や老衰の増加といった課題がある
- 栄養・食生活、がん・循環器病等、歯科保健、認知症、リハビリテーション、性差に由来するヘルスケアの6領域が第一弾の重点領域とされた
- 認知症領域ではバイオマーカーを活用した早期診断、栄養領域ではわが国初の「食事ガイド」作成などが示された
- これらを支える基盤としてAI予防医療モデルの構築が挙げられ、詳細は今後の予算編成過程で検討される
U.E.N.O.Planは、予防を「自分ごと」として捉え、リスクの段階から先回りするという考え方を、国の施策として明確に打ち出したものです。私たち一人ひとりにとっても、日々の栄養や健康リテラシーを見直す一つのきっかけになるかもしれません。