老化の研究指標「AGING HALLMARKS」って何? ― 世界の老化研究を動かすフレームワーク

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投稿日:2026.04.09  |  更新日:2026.04.10  |  約7分で読めます

「老化」は誰にでも起こる自然現象です。近年、老化研究の世界では捉え方が大きく変わってきています。老化は「仕方ないもの」ではなく、「中身がわかれば、手の打ちようがある」 もの——そんな考え方が広がりつつあります。

こうした流れのなかで、世界の研究者が共通の枠組みとして参照しているのが Hallmarks of Aging です。私たちはこれを AGING HALLMARKS(エイジング・ホールマークス) と呼び、老化研究の指針としています。(※この記事でも同呼称を用います)。本記事では、AGING HALLMARKSとはなにか、わかりやすく解説していきます。

この記事でわかること

AGING HALLMARKS(Hallmarks of Aging)とは?

AGING HALLMARKS (エイジング・ホールマークス)— 正式には Hallmarks of Aging(ホールマークスオブエイジング) — とは、老化という複雑な現象を、共通する生物学的メカニズムで整理・分類したフレームワーク です。

老化にはさまざまな側面がありますが、研究者たちはその根本にある分子・細胞・システムレベルの変化を体系的にまとめることで、老化研究の共通言語をつくりました。

現在、AGING HALLMARKSは 3つのカテゴリー、全12種類の老化要因 で構成されています。

3つのカテゴリーとは、以下の通りです。

  1. 一次的ホールマーク(Primary):老化の根本原因。いわば老化の「種」
  2. 拮抗的ホールマーク(Antagonistic):一次的ホールマークに対する体の応答。老化に抗おうとする「防御反応」
  3. 統合的ホールマーク(Integrative):上記が組織・個体レベルで表面化したもの。全身に現れる「結果」

なお、12のホールマークは独立した現象ではなく、互いに影響し合っています。たとえば、ゲノム(生物がもつ遺伝情報全体)の不安定性、エピジェネティック(遺伝子の「オン/オフ」パターン)な変化、ミトコンドリア(細胞のエネルギー工場)の機能異常は、それぞれが独立して起こるのではなく、互いに影響し合いながら老化を進行させる ことがわかっています。


誰が提唱したのか?

AGING HALLMARKSは、2013年にスペイン・オビエド大学の Carlos López-Otín(カルロス・ロペス=オティン)教授 を筆頭著者とする国際的な研究チームによって、科学誌 Cell に発表されました 1

共著者にはテロメア 研究、老化生物学、細胞老化、免疫・代謝の各分野を率いるBlasco、Partridge、Serrano、Kroemerの4氏が名を連ね、分野横断的な知見を結集した論文です。

この論文は発表以来、老化研究分野で最も引用される論文の一つとなり、世界中の研究者にとっての共通基盤となりました。

老化さん 用語解説
テロメア
染色体の末端にあるDNAの保護キャップのような構造。細胞が分裂するたびに短くなり、一定以下になると細胞は正常に分裂できなくなる。

9つのホールマークから、2023年に12項目へ

2013年の初版では、老化の根本的なメカニズムは 9つのホールマーク で説明されていました。

しかし、その後の10年間で老化研究は飛躍的に進展。当初は酵母や線虫など非哺乳類モデル動物が中心だった知見がマウスや霊長類でも検証されるようになり、2023年にLópez-Otín教授らは同じく Cell 誌上でAGING HALLMARKSを大幅にアップデートし、12のホールマーク として再定義しました 22

新たに追加されたのは以下の3項目です。

  • オートファジーの機能低下(Disabled macroautophagy)— 細胞が自分自身を修復・リサイクルする仕組みの衰え
  • 慢性炎症(Chronic inflammation)
  • 腸内細菌叢の変化(Dysbiosis)

これらは以前から研究対象ではあったものの、この10年間で独立したホールマークとして認められるだけの科学的エビデンスが蓄積されたことで、正式に加わりました。


ホールマークとして認められる「3つの条件」

AGING HALLMARKSは、単に「老化に伴って見られる変化」を並べたリストではありません。López-Otín教授らは、以下の 3つの基準(原著では premises=前提条件)を満たすものだけを「ホールマーク」として定義しています。

  1. 加齢に伴い現れること — 正常な老化の過程でその変化が観察される
  2. 人為的に増強すると老化が加速すること — 実験的にその変化を強めると、老化が早まる
  3. 介入により老化を遅延・停止・逆転できる可能性があること — その変化を改善することで、健康寿命の延伸につながりうる(主にマウスなどのモデル動物で確認されており、ヒトでの検証も進みつつある段階です)

私たちがとくに注目しているのは、3番目の基準です。つまり、AGING HALLMARKSで挙げられた老化要因には、介入の余地があるということです

老化への介入の象徴的な動きと言えるのが、2023年に始まった XPRIZE Healthspan です。これはXPRIZE財団が主催する7年間・賞金総額1億100万ドル(約150億円)の国際コンペティションで、50〜80歳の被験者の筋力・認知機能・免疫機能を、最低10年(目標20年)若返らせる方法 の開発を世界中のチームに求めています。58カ国から600を超えるチームが参加しており、「老化に介入できる」という考え方が、もはや学術論文の中だけの話ではなく、巨額の賞金をかけた世界規模の挑戦になっていることがわかります。


日常でできること — AGING HALLMARKSの視点から

老化への「介入」は、何も特別な治療や先端技術だけの話ではありません。私たちの毎日の運動・食事・睡眠といった生活習慣から、これらのホールマークに影響を与えている可能性が研究から示唆されています。

  • 適度な運動: ⑦ミトコンドリア機能の維持、⑨幹細胞の活性化、⑪慢性炎症の抑制に関連する研究が多数あります
  • バランスの良い食事: ⑥栄養感知経路の調節や⑫腸内細菌叢の多様性維持に関わっています
  • 質の良い睡眠: ⑤オートファジー(細胞の自己修復)の活性化と関連しています
  • ストレス管理: ⑪慢性炎症や②テロメア短縮の抑制に影響します

※いずれも現時点の研究知見に基づく示唆であり、個人差や条件による違いがあります。

老化は避けられない現象ですが、そのスピードや質に影響を与えうる手段は、すでに私たちの日常のなかにあると考えられています。AGING HALLMARKSは、何をすればいいかを考えるための「地図」のようなフレームワークです。まずは今日の生活のなかで、一つだけ意識を変えてみること——それが最初の一歩になるかもしれません

私たちも、AGING HALLMARKSを基軸に12の老化要因それぞれへのソリューション開発を進めています。詳しくは以下をご覧ください。

12種類の老化要因の詳細は、NOMON & Co. の研究開発ページで詳しくご覧いただけます。
AGING HALLMARKSを基軸にした老化制御の研究開発|NOMON & Co.


[ 引用・参考文献 ]

  1. López-Otín, C., Blasco, M. A., Partridge, L., Serrano, M., & Kroemer, G. (2013). The Hallmarks of Aging. Cell, 153(6), 1194–1217. ↩︎
  2. López-Otín, C., Blasco, M. A., Partridge, L., Serrano, M., & Kroemer, G. (2023). Hallmarks of aging: An expanding universe. Cell, 186(2), 243–278. ↩︎

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