NAD+とは?その重要性を解説 〜筋肉のパフォーマンスの観点から〜

投稿日:2026.03.16  |  更新日:2026.03.18

私たちは、「”プロダクティブ・エイジング”があたりまえになる社会を創る」というビジョンの実現に向けて、老化に関する最新の研究成果を日々精査しています。また、日常に応用可能な知見を常に探索しています。NMN(ニコチンアミド・モノヌクレオチド)は、この探索の過程で着目した栄養素の一つです。
NMNは、人体に必須の「NAD+」が体内で合成される際の、一歩手前の材料(前駆体)です。NAD+は加齢とともに減少することがわかっており、この減少を食い止めることで、老化をコントロールできる可能性があります。 今回は、そのNAD+とは何か、NAD+を増加させるとどのようなポジティブな効果が期待されるのかを、運動との関連性についての研究も交えてご紹介します。

この記事でわかること

  • NAD+とは何か、なぜ加齢とともに減少するのか
  • NAD+前駆体の補充が筋肉に与えるポジティブな変化
  • レジスタンストレーニングが筋肉のNAD+を回復させるメカニズム

NAD+とは?


NAD+はニコチンアミド・アデニンジヌクレオチドの略で、生きていくうえで必須の成分です。NAD+は、糖を分解してATP※1を作り出す過程で使われる物質です。 それ以外でも壊れた遺伝子を修復する過程にも使われています。
※1 すべての生物が生きるために使うエネルギーのこと

NAD+をつくるために欠かせないNAMPTという酵素

NAD+をつくるために最も重要な役割を担うのが、NAMPTと呼ばれる酵素です※2。NAMPTは、脳や筋肉、消化管など全身の組織で働く酵素です。しかし、NAMPTは加齢とともに減少し、NAD+の合成量が減少します。
一方、NAD+を分解する酵素であるCD38も存在します。CD38の働きは加齢とともに増加するため、体内のNAD+量は減少し、組織の機能低下を引き起こすと考えられています※3
近年の研究では、NAD+の減少を様々な方法で抑制することで、加齢に伴う組織の機能低下を防げる可能性が示されています。

NAD+前駆体をサプリメントで補充する

NAD+の前駆体の一つであるニコチン酸をサプリメントとして摂取した研究をご紹介します※4
この研究ではミトコンドリア病患者を対象に、750-1000mg/日のニコチン酸サプリメントを10ヶ月間投与しました。なお、この用量ではナイアシンフラッシュと呼ばれる皮膚の発赤、紅潮が副作用として生じます。
ミトコンドリア病患者は、エネルギー産生の場であるミトコンドリアに異常を抱えており、血中、筋肉中ともにNAD+量が健常者より低下しています。ニコチン酸を摂取した結果、NAD+レベルは筋肉中で2.3倍、血中で8.2倍に増加しました。さらに、NAD+の増加に伴い、腹筋で10倍、上腕の筋力で2.5倍、背筋で2倍と、低下していた筋力が回復しました。ミトコンドリアの数自体も増加しており、NAD+の増加がエネルギー産生能力の向上につながったと考えられます。
この結果から、NAD+を増加させることで筋肉中のミトコンドリア機能が高まり、よりエネルギーを産生できるようになった結果、筋力の向上が引き起こされる可能性が示唆されます。

運動とNAD+


サプリメントによる補充以外にも、レジスタンストレーニングが筋肉のNAD+を上げるのに効果的であるという研究が報告されています※5
レジスタンストレーニングとは、レッグプレスやベンチプレス、ケーブルプルダウンなどのマシンを用いて、筋肉に比較的強い負荷をかけるトレーニングです。この研究では、59歳前後の男女16名を対象に、週2回のトレーニングを10ヶ月間継続し、筋力とNAD+量の変化を調べました。
その結果、太腿周りの筋重量と筋力が増加しただけでなく、筋肉中のNAD+濃度がトレーニング前と比較して約2倍に増加しました。この増加により、中年の被験者の筋肉中NAD+レベルは、若い大学生と同程度にまで回復していました。同時にNAD+合成酵素であるNAMPTの量も15%増加しており、運動によりNAMPTの量が増加し、結果としてNAD+量を増加させた可能性が考えられます。

終わりに

NAD+は「筋肉が糖を分解してすぐにエネルギーを作り出すのに重要な解糖系」と、その過程で発生する「疲れの原因の乳酸」を処理する反応の両方に必要な物質です。今回紹介した2つの研究から、運動によって筋肉中のNAD+量が増加すること、そしてNAD+の増加が筋肉のパフォーマンス向上につながることが示唆されています。
レジスタンストレーニングの意義は、ただ単純に「筋肉を肥大させる」という量的な変化だけでなく、NAD+をより多く作り出せる筋肉へと変化させ、より強く、より高いパフォーマンスを発揮できる筋肉を作る可能性があるといえます。

[ 参考文献 ]
2 Yoshida et al. Extracellular Vesicle-Contained eNAMPT Delays Aging and Extends Lifespan in Mice. Cell Metabolism 2019, 30, 329-342e5.
※3 Camacho-Pereira et al. CD38 dictates age-related NAD decline and mitochondrial dysfunction through a SIRT3-dependent mechanism. Cell Metabolism 2017, 23, 1127-1139.
※4 Pirinen et al. Niacin cures systemic NAD+ deficiency and improves muscle performance in adult-onset mitochondrial myopathy. Cell Metabolism 2020, 31, 1-13.
※5 Lamb DA et al. Resistance training increases muscle NAD+ and NADH concentrations as well as NAMPT protein levels and global sirtuin activity in middle aged, overweight, untrained individuals. Aging 2020, 12, 9447-9460


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